2人の編集長が語る「10年続くオウンドメディアの作り方」の秘訣
この記事のポイントは…
2024年7月12日に開催された「10年続くオウンドメディアの作り方」イベントに参加したレポートです。
オウンドメディアは「オワコン」ではなく、企業のコミュニケーション戦略に不可欠な要素です。長期的な視点を持ち、時代に合わせて柔軟に変化することが重要です。
定量・定性的な反応を集め、社内他部門と長期的な協力関係を作り、運営を続けていきましょう。
「ブーム再来」か「もうオワコン」か。
2024年7月12日に開催されたユーザベース社開催のイベント「10年続くオウンドメディアの作り方」の告知文冒頭にあった言葉です。
イベントタイトルに「10年続く」とありますが、10年前といえば2014年。たしかにその頃「オウンドメディア」という言葉を冠する雑誌の特集やウェブ記事、書籍やイベントが増えた時期がありました。
その後の10年、他のブームに注目を奪われオウンドメディアという手法に関する話題が落ち着いていた日々や、数々のオウンドメディアの終了やフェードアウトも見てきました。
だけど、オウンドメディアが「オワコン(終わったコンテンツ)」だなんて、思いたくない。
なぜならば、オウンドメディア運営者の皆さん同士で学び合う姿や、彼らが発信した各社の専門的知見が世間の役に立つ様を、この10年途切れなくずっと見てきたからです。この記事を書いていることぶきは、2014年からずっとオウンドメディア運営者のためのコミュニティ「オウンドメディア勉強会」を運営しています。
オウンドメディアという言葉が少し古びたとしても、使うツールや手法が変わったとしても、企業が自らの言葉でタイミングで自分のドメインで届けたい相手に向けて発信する場を持ち運営し続ける活動は、企業のコアそのものです。
オワコン、という強い言葉にちょっとだけ身構えながら参加した、「10年続くオウンドメディアの作り方」。登壇された2社の10年以上続いてきたメディア運営のお話を聞いて、時代に合わせて手法は変われど大事な部分は変わらないことが実感できて、安心したのでした。
というわけで、この記事ではイベントからの学びをご紹介します!
長く続ける秘訣って? ベテラン編集長に聞いてみた
このイベントには、長年続くオウンドメディアの編集長2人が登壇しました。NEC の「wisdom」編集責任者 萬代由起子さんと、「サイボウズ式」編集長 神保麻希さんです。
wisdom 萬代さんが編集責任者を務める wisdom は、2004年にスタート。2004年と言えば個人向けブログサービスが増え、企業利用としては社長が自ら書く社長ブログが話題になった頃ですね。20年前の開設当初の目的は「NEC とつながりにくい人々とのコンタクト」でした。時代とともに少しずつ形を変え、今では NEC のブランディングやリードのナーチャリングも意識した運営をされているそうです。
サイボウズ式 もう1人の登壇者、神保さんが編集長のサイボウズ式は2012年にスタート。「チームワーク溢れる社会を作る」というビジョンのもと、働き方とチームワークに関する情報を発信し続けています。コンテンツ作りの指針は「迷ったときに立ち止まって新しい価値観に気づける」こと。記事や動画コンテンツだけでなく、東京レインボープライドへのブース出展や開催中の高円寺小杉湯とのコラボ企画(〜2024年7月31日まで)などユニークな活動も特長です。
オウンドメディアの変遷、定量・定性目標の変化
長くオウンドメディアを続けていく中で、両者それぞれに定量的な目標を掲げつつも、定性的なコメントも重視されていました。
wisdom 経営層からの「事業にどう貢献してるの?」に対しては、定量的に証明する工夫が必要です。
オウンドメディアを通して顧客との接点を作り、ネクストアクション(イベント・資料請求・サイト内回遊)につなげ、その動きの中で顧客のインサイトがなんなのかをまとめ、共有していく活動を続けています。ただし、萬代さんは「B2Bの場合、成果が出るまでに時間がかかるため、単年度での評価は難しい」と指摘しています。
成果をROI(投資収益率)で示すことに加えて、ブランディング活動としての価値も主張してきたそうです。
サイボウズ式 サイボウズ式と言えば、KPIを意識しない運営方針が注目されていました。ここ Six Apart ブログでも、2016年に「サイボウズ式が、PVより重視する成果とは何か」という記事を公開しています。
神保さんによると、現在はKPIとして新記事公開後の初速、1週間後、1か月後の数字を見ているそうです。加えて、ブランディングのために、どんなメッセージが有効なのか探るのもオウンドメディアの役割と付け加えます。定性的なコメントを集め検証するには、ある程度の数が必要だからです。ただし「数字を追うことを目的にしない」姿勢は維持しているそう。
他部門からの情報売り込みへの対応
長年発信してきたオウンドメディアは、社内のメンバーからも情報拡散場所として期待されます。ただし、メディアの位置づけや目的を正しく認識してもらっていないとその期待は空回りになります。
社内から適切な協力を得て、かつ社内の情報をオウンドメディアを使ってさらに効果的に拡散していくために、どんな工夫があるのでしょうか。
wisdom wisdom にネタを提供する前に読んでもらう情報として、wisdom のコンセプトをまとめた資料を用意しているそうです。企画提案の際のポイントは次の2つ。
- 自社製品ソリューションのPRではなく、お客様の興味関心軸に沿ったネタかどうか
- 社会やビジネスにインパクトのある話題かどうか
これらのポイントを踏まえて、記事の内容・構成などを記載する企画提案用のシートも合わせて用意しています。
コンセプト資料を共有した上で企画提案シートに基づいた提案を受けたとしても、そのまま採用できない場合もあります。そんな時には企画内容に対してフィードバックするのはもちろん、製品訴求色が強い場合は掲載場所としてコーポレートサイトが適しているなどの提案を行っているそうです。
サイボウズ式 社内の各チームからサイボウズ式へのネタ提供も頻繁にあります。ただし、そのまま企画化できることは稀だそう。サイボウズ式の読者の興味に合わせるためには、記事企画の練り込みや公開タイミングなどの工夫が重要です。
「会社として発信しているメッセージとの一貫性、社会的な興味関心の度合いなどを加味すると、たいてい記事として取り上げるには早すぎる場合が多い」と、神保さんは語ります。
そのネタ、今じゃない。だとしてもスルーするのではなく、提供されたネタのアップデートはずっと追いかけているそうです。社内での知見や実績が詰まれ、外に発信するのにも良きタイミングと思った時に改めて記事化を進めることも多いとか。そのため、社内のメンバーとのコミュニケーションは長期が前提です。
オワコンじゃない。いまからでも、オウンドメディアに取り組むべき
最後に、両氏が語るオウンドメディアの今後の話を共有します。
サイボウズ式 神保さんは、オウンドメディアの活動はただ記事として公開するだけじゃなくイベントやSNSなど、いろんな形で展開できる可能性があると語っていました。ウェブ記事の良いところは、一番手軽に実行できること。反応を見ながら大きく育てていく、それを楽しむことが大事とのお話でした。
wisdom 「既に世間には、たくさんのオウンドメディアがある中、自社もオウンドメディアを持つべきか?」の質問に、萬代さんは「ある」と答えます。コストとリソースはかかるものの、オウンドメディアは企業がいつでも発信できる場所として重要ですし、顧客とつながりファンになってもらう可能性が持てるのもメリットです。
まとめ
長期的な視点を持つこと、時代に合わせて柔軟に変化していくこと、社内他部門と協力すること、そして定量・定性的な反応を集め分析すること。長く続くオウンドメディアの運営において、これらが大切ということは両者のお話に共通していました。
オウンドメディアは決して「オワコン」ではありません。企業のコミュニケーション戦略において不可欠な要素として、手法は変わりながらもずっと活用し続けていくべきものだという思いが改めて強くなりました。
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