#keep4o、Zero Slop Zone、電力不足 2025年AIトピックを振り返る:AI Media Night レポート
この記事のポイントは…
2025年12月12日「AI Media Night(primeNumber社 主催)」のイベントレポです。生成 AI の2025年の主要なトピック振り返り&将来予測を語る会でした。
性能競争から人格へのシフト:#keep4o や Zero Slop Zone に見られるように、AIの高性能化よりも「人格」や「倫理観」といった人間的な価値が重視される流れが、今年は多く見られました。
物理的制約が現実化:電力不足とメモリ価格高騰が進み、AI バブルが電力不足によって崩壊するリスクの話題もありました。
こんにちは、Six Apart ブログ編集長のことぶきです。
2025年12月12日(金)、株式会社primeNumber主催の「AI Media Night 最前線のメディアが語る2025年のAIとこれから」に参加してきました。
年末ですし、今年も急激に進化した生成AI関連の主要なトピック振り返りつつ来年以降の予測を聞きたいな、と思って参加したのですが、その通りのイベントでした。逆に言うと、「コピペOKプロンプト」みたいな今すぐ使えるノウハウ的な話題はありません。2025年も生成AIの話題に注目し、実際に駆使してきた担当者の皆さんの実感と本音と将来展望を聞き、懇親会で直接お話できる貴重な場でした。こういった場こそ、AIには作れませんね。
このレポート記事ではLedge.ai、テクノエッジ、マイナビ TECH+、データのじかんのメディア担当者4名によるセッション内容を共有します。
4名のスピーカー
セッションのモデレーターは主催であるprimeNumber社の甲斐祐樹さん。スピーカーとして登壇されたのは、4つのビジネステクノロジーメディアとオウンドメディアの担当者でした。

上の写真、左に座る方から紹介します。
- テクノエッジ 松尾公也さん
- Ledge.ai 武石健太郎さん
- マイナビ TECH+ 小林行雄さん
- データのじかん 野島光太朗さん
セッションは、4名が事前に回答したキーワードがスライドに表示され、それについて解説しながら議論する形式で進められました。個人的に興味深かったいくつかの話題を共有します。
#Keep4o 運動と、生成 AI の「人格」需要
2025年8月7日、OpenAI は ChatGPT のデフォルトモデルをそれまでの GPT-4o から GPT-5 に切り替えました。これに対し、ユーザーから元の 4o に戻してとの声が集まったハッシュタグが #keep4o (または #4oforever )です。自分好みに育ててきた 4o の親しみやすい受け答えが失われ、代わりに 5 がそっけなく対応することに悲しむ声を X でもたくさん見かけました。
Ledge.ai 武石さんはこの運動を今年のトピックにあげ「4o にあった、人間らしさを感じる馴染みやすい反応が 5 になって無味乾燥になってしまった。高性能化が進み、性能の進化は感じにくくなってきた今、人格が AI に求められる価値になってきているのではないか」と発言しました。
この #keep4o を受けて、2025年12月現在の ChatGPT は設定画面からフレンドリー・率直・プロフェッショナル・個性的などから好みの受け答えトーンを選べるようになっています。
Anthropic 運営の、人間の思考を尊重するデジタル禁止ポップアップカフェ「Zero Slop Zone」
Claude を開発する Anthropic が、ニューヨークで今年10月初旬に期間限定でオープンしたカフェ「Claude Café」。AI 企業が運営するカフェならば、さぞ AI 活用最先端事例を体験できるのかなと想像しますが、実際にはその反対でした。これは、Anthropic が数百万ドルを投じて打ち出したキャンペーン「Keep Thinking」の一貫として、スマホなど画面付きのデバイス持ち込み禁止、ペンと紙と本だけで思索にふける場として作られたカフェなのだそうです。
生成AIで作られた薄っぺらな大量生産コンテンツは、AI Slop と呼ばれています。ポップアップカフェの別名「Zero Slop Zone」の Slop が、それです。
データのじかん 野島さんが共有してくれた今年思い出深い AI 関連トピックが、この Zero Slop Zone でした。AI 企業が人間の思考を尊重していることを「体験」として伝えるためのポップアップカフェ。「AI が、人間の思考や活動を退化させるものであってはならないという、アンチテーゼみたいなキャンペーン」とのこと。
野島さんは、別の話題のキーワードとして CPO にも触れました。「LinkedIn を見ると Cheif Philosophy Officer、最高倫理責任者という肩書きの人が増えている。国や宗教、その他で倫理の捉え方は変わることも、そのような立場が求められている背景」だそう。
上記の #keep4o の話と同じく、性能競争ではなく、人間が AI とどう付き合うのかといった哲学的な話題が来年はさらに増えそうです。
懸念するAIの悪影響:AI サブスク格差、Brain Rot(脳腐敗)
毎月約20万もの予算を AI 関連サブスクに課金しているテクノエッジ 松尾さんが指摘したのは、AI 格差の拡大です。月額3万円ほどの最上位プランの AI を無制限に使える環境にいる人と、そうでない人。そこに格差が生まれる可能性があります。特に、若年層がこうしたツールに触れられるかどうかは周りの環境に依存するため、教育面での格差が生まれることへの懸念が示されました。
また、Ledge.ai 武石さんは、「内容の薄いデータ」を学習し続けた結果 AI 性能が劣化する「脳腐敗(Brain Rot)」のリスクに触れていました。字面が怖すぎますね。良質なデータが枯渇しているから「人間が AI に教育させるための文章を書く」という、自分の首を絞めるような新たな労働が生まれている実態の話もありました。
インフラが悲鳴を上げる:電力不足とメモリ価格高騰
マイナビ TECH+ 小林さんが取り上げたのは、電力不足とメモリ価格高騰について。AI の発展を物理的に阻みかねないシビアな課題です。
AIデータセンターのラック1台に消費する電力が、現在の15〜20KW(キロワット)から、2029年には1MW(メガワット)になる予測があります。参考までに、データセンターのラックのサイズは、ファミリーサイズの背の高い冷蔵庫をもう一回り大きくしたくらい。1MWというのは、一般家庭300〜500軒が同時に使っている瞬間電力くらいです。想像するとかなりすごい。
そうなると、発電所が生み出せる電力量には限りがあるため、データセンターと一般家庭との電力の奪い合いになります。これを受けて、既にアメリカでは電力許容量の制限(バジェットキャップ)が議論されているとのこと。「AI バブルは、電力不足によって物理的に崩壊するリスクがある」との小林さんの発言は衝撃的です。
さらに、GPU やメモリが AI 向けに独占されメモリチップは来年分まで売り切れ、PC やスマホの価格高騰を招いているとのニュースも聞きます。AI の進化に伴って、私たちの生活コストが上昇するというのは困りものです。
イベントを受けて、来年はどうなるか考えてみたい
今年は AI の性能進化への驚きよりは、人間に寄り添うエージェント/パートナー的なアプローチへの進化が目立ったのが印象的な年でした。この流れは来年も続きそうですし、電力やメモリ不足の影響はさらに大きくなりそうです。
個人的に、AI 周りで来年気になるトピックを箇条書きで書いてみます。
- AI 学習のルール:AI 時代にコンテンツクリエイターの利益を守るための新たな仕組み「RSL(Really Simple Licensing)」が話題になっています。多くのコンテンツ発信側の企業・個人がこのような仕組みを導入して希望を明示し、AI 企業がその希望に従わないと意味が無いので、どう進むか注目しています。
- コンテンツホルダーとAI企業の提携:ディズニーと OpenAI の提携のような事例がでてきました。日本の IP ホルダーはどう動くのでしょう。(※この件は、キーワードとして今回のイベントスライドには含まれていたけれど、時間が足りず言及されませんでした)
- AI リテラシー教育:学校の教育現場や子どもの学びにも遊びにも AI 利用が増えています。文科省が昨年末に公開したガイドライン「学校現場における生成AIの利用について」にあるように、「AIをどう使うか」というリテラシー教育も喫緊の課題です。中高生世代の親としてはスマホや SNS との付き合い方の問題も頭を悩ませてるのに、さらに AI との付き合い方についても見守らなければなのでしょうか。
今回のイベントは、生成 AI まわりの現状と課題を振り返り、考えてみる良い時間になりましたし、それをネタに懇親会でいろんな方と雑談できました。主催の primeNumber さん、スピーカーの4名の皆さま、ありがとうございました!
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