「中立的な立場から見て、その情報はユーザーに有益か?」と考えるのが編集部のルール【突撃!隣のオウンドメディア Vol3】

オウンドメディア担当者の血と汗と涙とノウハウを取材させていただく企画、「突撃!隣のオウンドメディア」の第3回は、2012年にローンチしたファッション総合ニュースサイト「ファッションヘッドライン」を運営する、株式会社ファッションヘッドラインです。

「ファッションヘッドライン」は、三越伊勢丹ホールディングスとイードの合弁会社である株式会社ファッションヘッドラインが運営しており、ファッション界のニュースを月間350本から400本というハイペースで配信しています。

自社や製品の認知拡大を目的とした一般的なオウンドメディアとは一線を画し、「ファッション業界を盛り上げる、中立的なニュースメディア」のファッションヘッドライン。総合プロデューサー 菅沼さん、ディレクター 横山さん、事業管理 鈴木さんにお話を伺いました。

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http://www.fashion-headline.com/

Q: 百貨店がウェブで情報発信しようと考えたそもそもの理由は?

2012年12月にローンチしました。経緯としては、ウェブが全盛の時代なので、百貨店もその分野に長けていないといけないという危機感がありました。ファッション業界の一員としてネットに打って出るために「百貨店として何ができるか?」を考えました。時代の流れはありつつも、百貨店には“最新情報とトレンドの発信装置”という機能があります。

これまでも紙媒体での情報発信は長年続けてきましたが、これに加えてウェブでも発信したかったのは、都心の店頭にいらっしゃれないお客様にもコンテンツを届けたいという意図もありました。

Q: 立ち上げまでの社内理解を得るために、どんなアクションを?

ファッションヘッドラインは広義ではオウンドメディアの範疇には入るでしょう。自社のPRをするにしても、どこもやってない取り組みにしたいという心構えはありました。

もともと、百貨店業界は立地に根ざした産業であり、ファッション業界と共に育ってきた経緯がありますが、現在は、地方店の撤退やファッションブランドの統廃合など、厳しい業界になってきている事実もあります。しかしながら、そこに関わる人々や技術には世界に誇るものがある。それをいかに伝えて、見て、触れて、購買していく「きっかけ」を作りたかったのです。企業を飛び越えて業界全体を底上げしていくような中立性を意識したメディアという着想はそんな想いからはじまっています。

結果的にこれまでの組織に存在しない機能だったので受け入れられやすい立場でいられました。加えて、タイミングよくイードに出会えたのも大きいです。彼らの経験とノウハウ無しには、実現は無理だったはずです。

Q: 中立サイトの立ち上げは、通常のオウンドメディアとは違った苦労がありましたか?

中立性保持のため、立ち上げの最初から編集長を外部から招聘しました。1日の記事数は15本(平日)、週末(8本前後)を目標にして、今も大きく変わりません。立ち上げ当初はファッションヘッドラインの知名度も低く、外部からプレスリリースが届かなかったので、ネタ集めも自分たちで探していきました。

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横山さん(ファッションヘッドライン ディレクター)

Q: 他社と自社ニュースのバランスを取りつつ、中立性を守るのは難しいですか?

さほど苦労はないですね。会社の枠も越えているので、阪急さん、高島屋さん等他社さんの記事も出します。先方のPRの方にお会いして、お話を聞かせていただきに出向くこともありますよ。いまではリリースがこちらに届くようになりました。

どこの企業の情報かは重要ではなく、ユーザーにとって内容が良ければ出しています。どれを出すかの判断は編集部にあります。その点は、別会社であり中立というポリシーがあるので、弊社グループ内では理解してもらっています。なお、ファッション界を盛り上げる、ポジティブなニュースを発信するようにしているので、どこのブランドが終了する等のネガティブな記事はなるべく出さないようにしています。

逆に気をつかうのは、自社のニュースが立て続けに重なるとき。ファッションニュースがたくさん出るシーズンはありますので、ニュースソースが増えすぎることがあります。あれもこれも取り上げたいとき、取捨選択が難しいです。ユーザーから見て有益なニュースであるかどうかがカギです。

中立的な立場から見て、その情報はユーザーに有益か?」を編集部全員が心がけています。三越伊勢丹の占める割合は全体の10%程度と決めています。それが功を奏しているかどうかはわかりませんが、三越伊勢丹の運営であることをご存じない方も意外に多くて、事実を知って驚かれることもあります。

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菅沼さん(ファッションヘッドライン 総合プロデューサー)

Q: 別会社をつくるという判断は、なかなかできないのでは?

幸いにも、経営層は「スピード感を学ぶには、会社事業にしたほうがよいのでは?」と理解を示してくれ、若い人材に任せて外部のイードと組んでもっとスピーディにやろうって決断をしてもらえました。とはいえ、大掛かりな計画でしたし、準備期間に10ヶ月を要しました。

最初はニュースとPRの違いを説明するところから始めました。「PRではないので、事実を伝えます。よって自社情報であっても、ニュース性がない限り取り扱いません!」と断言することも。中立性に関しては今も社内に訴え続けています。

Q: 「社内に企画をどう通したの?」と質問されませんか?

セミナーに登壇する機会が多かったのですが、「内部でどう企画を通したのか?」「社内でどう調整していったのか?」をよく訊かれたそうです。経営陣をどう説得するかはどこも同じ課題なのだなと感じました。

三越伊勢丹は革新的なことに挑戦する社風があります。イードと立ち上げることを決めたのは英断だったと思います。1年遅れていても、あるいは早過ぎていても企画は通らなかったかもしれません。2012年はよいタイミングであり、転換期だったと思います。

もともと販促活動としてのメディアは持っていたので、「それとは違う、中立な立ち位置のニュースメディアを目指します」って社内提案したとき、反対よりも「どうやってニュースを集めるの?本当に集まるの?大丈夫?」って心配されたくらいです。

世の中にはファッションネタはじゅうぶんにあって、拾えていないだけだとわかっていましたし、リリースだけではない生の情報を持つことは、今後の三越伊勢丹の強みになると考えていました。

Q: 小さな障壁はいくつかあったものの、無事にローンチできたのですね

やることにマイナスの要素がなかったので、大きな障壁はなかったです。ビジネス目的としてPL(損益計算書)は意識しないことはないですが、「まずはニュースを出していこう」、「せっかくITベンチャーと組むのだから、たくさん吸収してノウハウを得よう」という考えでスタートしました。

三越伊勢丹とイードが9:1で出資しあって会社を立ち上げており、もちろん覚悟と決意をもって取り組んでいます。ただ、短期的な売上よりも、意義を大切にしています。

参考リンク

Webメディアへの積極展開に向けた合弁会社設立のお知らせ

2年以内に黒字化を目指したところ、めでたく1年10ヶ月で達成できました。ただ、広告掲載には反対していた経緯があったりします。イードさんはビューに対してアドを出して売上につなげ、経営基盤にしようって考えがあったのです。ただ、ファッションの世界では難しい事情もありまして……わかりやすい例でいうと、高級路線の海外ビッグブランドは掲載位置と並べられる他社広告を気にされます。

Q: どのような方に情報を届けたいのでしょうか?

三越伊勢丹では、「ファッション=アパレル」とは定義しておらず、ファッションという言葉をもう少し広義に捉えています。我々はライフスタイルそのものがファッション、衣食住もビューティも、アートもファッションの一部だと考えています。

伊勢丹新宿店の上階から下まで歩いて見てもらうと、三越伊勢丹の考えるファッションが体感できると思います。その上でファッションヘッドラインとしては、「ファッション×何か」と組み合わせてニュースを発信しているのです。ファッションはアパレルだけではなく、カルチャーのひとつとして打ち出していく考え方です。

目指すポジションは「あこがれに触れられるメディア」です。ファッション界はモードなど業界が強い世界ですし、そういう人たちの間で話題になる必要があります。業界の人(アーリーアダプター)がいつもチェックしているメディアになりたいと考えています。

ペルソナを考えて動く文化はもともとあって、服だけの世界ではなく、生活様式まで想像力を駆使しています。「我々のお客さんは、もしかしたらこういうことが好きなんじゃないかな?」、「これが好きなら、あれも興味を持ってくれるかもしれない」、「いや、それは違うのではないか?」等と社内で喧々諤々やっています。

Q: カテゴリと記事数のバランスはどう取っていますか?

ファッションを中心軸に、10カテゴリに落ち着きました。「ビズってカテゴリはファッションじゃないのでは?」と思われるかもしれませんが、年がら年中ファッションだけではお腹いっぱいになりますよね。1日15記事をどう構成して配信するかを意識しつつ、カテゴリごとにいろんなテイストの記事を織り交ぜます。当然ながら、ファッションの切り口が軸としてあって、全く関係ないネタは出しません。

記事本数は季節で変動はしますが、平日は15本、週末は7~8本です。つまり365日無休で動かしています。まあ、週末用の記事は平日に仕込んでおき、予約投稿で公開します。ただし、SNSで投稿する程度は動いています。もともと、百貨店は元旦を除く1年364日営業に近いものがあるので、こういう動き方には慣れています。

Q: せめて、大晦日くらいは休みますよね?

じつは大晦日は意外と重要な日なのです。大晦日の紅白歌合戦って、ファッショントレンドが見て取れるってご存知でしたか? 歌手の衣装ではなく、司会者の衣装や応援に駆けつけたタレントらの衣装は、有名デザイナーが手がけたモノだったりします。編集部はそういう情報も追いかけるので、休みであっても仕事のアンテナは張っていないといけないのです。

参考リンク

Perfume、今年の紅白はmame着用。真鍋大度「Perfume最高です」

※2014年12月31日の記事

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鈴木さん(ファッションヘッドライン 事業管理・総務)

Q: ファッションヘッドラインは成功したと言えますか?

その判断はまだ早いと思っています。月間300万PVを目標にしており、それに近いアクセスはあります。ただ、PVだけが指標ではなくUUが重要。無論、その中身と質も大切です。セグメントされていない200万UUよりも、我々の臨むライフスタイルを持つ購買層からの80万UUであるべき。読んで欲しいひとに読んで欲しいから、PVが絶対ではなくなります。ですので、記事の粗製乱造はしません。

今の時点で成功しているわけではないです。PVで稼ぐというビジネスはいつか頭打ちになると考えていて、これからどういうビジネスモデルにしていくべきか、Eコマースなのか、リアルイベントなのか、従来のスタイルをどう織り交ぜるのか……答えはハッキリ出ていません。アクションを起こして、探しながら進むしかないと考えます。

KPIや目標はあるものの厳密に追い求めてはおらず、評価基準は設けつつも、良質な記事を毎日15本配信し続け、公開後の反応を1記事1記事分析しています。いまはひたすらニュースをしっかり発信していくことに注力しようという考えです。

Q: ファッションヘッドラインを運営してきて、最も印象深かった&嬉しかったことは?

いろんな世界の人と仕事できて、毎日が新鮮で楽しいです。普通は知り合えない人と出会えるのが刺激になります。イードとの出会いも含め、いろんなことができます。今日、こうしてシックス・アパートさんから取材していただけたこともそうです。直接的な売買だけの話ではなく、さまざまなジャンルのビジネスと化学反応があることがプラスです。


“百貨店による中立性を保ったメディア”という、前例のないメディア運営にチャレンジするファッションヘッドラインの皆さん、貴重なお話ありがとうございました!

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