現場のオウンドメディア担当者に聞く「スキルアップ方法」ってどうしてますか?(2)

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こんにちは。「アミケン編集塾」塾長のアミケンです。 シックス・アパートのことぶきさんと一緒に「オウンドメディア勉強会」の幹事もやらせてもらっています。

「オウンドメディアの担当者が伸ばすべきスキルとは?」についての現場インタビュー第2弾です。今回は数多くのオウンドメディアを運営しているリクルートグループから、リクルートキャリア社の石井さん、リクルート住まいカンパニーの佐々木さんのお二人に話をききました。

人物紹介

石井束査(写真左)

株式会社リクルートキャリア コンテンツマーケティンググループ所属。「リクナビNEXTジャーナル」「就職ジャーナル」「転職成功ノウハウ」等を運営する部署のマネージャー。

佐々木美帆(中央)

株式会社リクルート住まいカンパニー コンテンツマーケティンググループ所属。不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」のオウンドメディア「SUUMO(スーモ)ジャーナル」編集担当。

鈴木健介(アミケン、写真右)

オウンドメディア勉強会の共同幹事。WEBメディア編集者を育成するプログラム「アミケン編集塾」を主宰。

担当者の役割は、メディアによって色々

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アミケン

石井さん、佐々木さん、どうぞよろしくお願いします。 まずは、お二人が現在担当しているメディアと、役割・ミッションを教えていただけますか?

石井

僕はコンテンツマーケティング担当の部署でマネージャーをしています。メンバーは14人ほどいます。「リクナビNEXTジャーナル」「就職ジャーナル」「転職成功ノウハウ」など、部署として運営しているメディアがいくつかあります。

僕自身の役割をざっくり言うと「組織ミッションの設定」と「達成までの推進」です。例えば予算管理、グループメンバーのフォローや育成とかですね。組織コンディションをいい状態に保って、良質な結果が出るようにするのが僕のミッションですね。

佐々木

石井さん、めっちゃ偉い人だったんですね・・・。

私は不動産情報サイト「SUUMO」が運営している、住まいと暮らしのニュース・コラムサイト「SUUMO(スーモ)ジャーナル」の編集者です。役割としては、編集記事の企画、進行管理、SNS投稿、アクセス数のモニタリング、UI・UX改善などを担当しています。

SUUMOジャーナルをメインで担当する編集部のメンバーは5人いて、私以外は編集業務をメインで担当しているのですが、私は担当記事も持ちつつ、サイト開発やモニタリングをデスクの人と一緒にやってる感じです。

アミケン

なるほど。デスクの人が、先ほどの石井さんと同じような役割を担ってるかんじですかね?

佐々木

そうですね。デスクがKPI設計、予算管理などを担当していますね。今のデスクは記者出身の人で、記事制作への想いも強いので、プレイングマネージャー的なかんじで、自分で記事を書いたり、編集担当記事も持っていたりします。

石井

僕とは違うタイプですね。僕は元CA(キャリアアドバイザー)なので、人材業界のプロとして、メンバーにアドバイスしたり記事を読んだ感想を伝えたりしますが、自ら記事の企画・編集する機会は少ないです。

アミケン

メディアによって、マネージャー、デスク、編集者、ライターのボーダーラインはまちまちですね。

編集者視点、マネージャー視点それぞれの「課題」とは

アミケン

お二人の担当業務において、「課題」に感じていることをお話いただけますか?

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佐々木

私の場合、主な課題は3つほどあります。 1つ目は記事ディレクションにおける「取材先探し」ですね。 記事のテーマ、企画の切り口に応じて、その話が聞ける専門家はどこにいるの?っていう人探しも大変ですし、色んな候補者の中から最適な人選をすることも難しいです。どうしても過去に取材させていただいた方が候補にあがりがちっていうのはありますね。

アミケン

取材依頼をする際に、趣旨を正確に伝える難しさもありますよね。期待と異なるコメントが出てきたときに、どう軌道修正するのか、それとも再取材するのか?っていう判断も編集者には問われますね。

佐々木

2つ目は、自分が担当した「記事の振り返り」が、十分にできていないことですね。
メディアとしての全体目標はあって、月次で達成できているのかっていうチェックはしているのですが。記事ごとのPVはどうだったのか、内容や進め方の良し悪しを振り返ったり、ナレッジをメンバー間で共有する機会をもっと持ちたいなと思っています。

3つ目は、「記事の質を上げること」です。 編集者歴がもうすぐ4年になり、ある程度は自分なりの「やり方・パターン」ができているのですが、もっと読者にわかりやすくする「伝え方」ってどう工夫したら良いのだろう?とか。読者にとってメリットのある記事にするために、もっとできることを増やせないだろうか……って考えたりします。

アミケン

石井さんの場合、メンバーからこういう課題について相談を受ける側ですよね?

石井

そうですね。「振り返り」の話でいうと、編集メンバー同士で「振り返り会」をウィークリーで開催することを仕組み化していますね。そこに自分が参加するわけではなく、レポートだけ受け取っています。
そのレポートでは、全体の数字が良かった/悪かっただけでなく、その理由や背景を分析して、トピックスをまとめて報告してね……って、ある意味権力を使って強制化していますね(笑)。そうすることで、PVは良くなかったけど、SNSで特定のターゲットからの反響はあったとか、色んな面白い話がでてきますし、今後にむけた学びもでてくるようになりました。

アミケン

その「振り返り会」には僕も参加していますが、毎回大小色んな学びがあって面白いですね。
良い話ばかりじゃなく、「チャレンジしたけどダメでした」「次は○○の工夫してみたら?」っていう建設的な反省をする良い機会になってると思います。雰囲気もフランクだし。

石井

あと「記事の質を上げる」ための施策でいうと、読者 = カスタマー側の価値を考えるために、定期的なカスタマーヒアリングを行うようにしました。月に2~3回とか。これも僕の権力を発動したわけですが(笑)。カスタマーが就職・転職活動で苦労したこと、悩んだこと、大事にしたこと等の「生の声」をメンバーに聞いてもらうことで、記事制作のヒントになってると思います。

佐々木

すごいなぁ。勉強になります!

アミケン

では、石井さんの現在直面してる課題とは?

石井

大きな課題でいうと2つですね。 1つ目はオウンドメディアの「投資対効果の説明」にはとても苦労しています。 検索エンジンから流入させて、そのままコンバージョンに繋げられるメディアならわかりやすいのですが、「転職」のような人生の転機に関わるものだと、カスタマーの検討・活動時期のスパンが長いですし、その間に何回メディアに接触したかとか、態度変容を証明するのって難しいんです。

2つ目は「組織コンディション」を良いかんじに保つことですね。 メンバー同士がノウハウやナレッジを前向きに共有しあう「場と雰囲気」をつくることとか、そもそも毎日楽しく働いてもらうこととか、各メンバーがやりたいことが実現できているか……っていうのを気にしていますね。

コンテンツマーケティングに必要なのは「貢献感」

アミケン

石井さんの1つ目の課題「投資対効果の説明」は、色んなオウンドメディア担当者にとっても共通の課題だと思います。具体的にはどのような取り組みをしていますか?

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石井

いろんなデータを取得して、仮説に当てはめてロジックをつくって……っていうことが、今のところ唯一のアイデアですね。

オウンドメディアのKPIって「PV」もしくは「コンバージョン」が置かれることがほとんどですよね。しかし、上層部も現場のメンバーも目標が例えばPV「だけ」だと納得感が得られにくいと思うんです。

「PVを上げて何になるの?」「PVだけ上げればいいの?」……みたいな意見は必ずでますね。それは僕もそう思うので、なんとかそれに意味づけをしないといけないかなと思っています。PVが上がったら●●な効果が生まれるんだよとか、▲▲に影響がおよぶかもしれないですよよ……という説明をログデータなどのファクトを基に取り組んでいます。

アミケン

PV = 量ですけど、量の数字が大きいだけでもダメだし、数字が小さすぎても良くない。そのへんのバランスを見るために「組織コンディション」が重要になってくるわけですね?

石井

そうですね。組織コンディションを保つためにできることとしては、3つほどあるかなと考えています。 1つ目は「役に立っている感」つまり貢献感の醸成ですね。コンテンツマーケティングとしてやってる仕事が、事業ミッションや、他の組織にどう波及しているのかっていうことを示すことが大事かなと考えています。

2つ目はメンバー個々人のコンディションがどうなっているのか把握したいので、毎月1時間1on1の「よもやま会議」の時間を設けています。もう1年くらい続けていますね。

アミケン

「よもやま」の効果ってどうですか?

石井

少なくとも僕はメンバー各自のことを以前よりは知ることができている状態になっていると思いますよ。 「よもやま」の中で、つい詰めちゃったりして逆に関係が悪化しちゃうことも時にはありますけど(笑)。それでもやらないよりは、やった方が良いんじゃないかと思ってます。グループ会議では出てこないような質問がでてくることもありますしね。

3つ目は「グループ研修の実施」ですね。半年に1回、オフィス外の場所で集まってスキルアップ講習や、お互いのことを知るグループワークに取り組んでいます。メンバーごとの得意分野や特技、意外な一面が明らかになったりして、面白いですよ。

アミケン

佐々木さんの課題はどうですか?

佐々木

やはりKPIを何に置くかは難しいなあと思いますね。 「SUUMO(スーモ)ジャーナル」は、ターゲットが「今すぐ家を探したい」という人ではなく、その一歩手前の、住み替えや暮らしをもっとよくしたいなあと漠然と考えている人がメインなので、コンバージョンに目標を置いてしまうと「さぁ家を買おう!引っ越そう!」みたいな記事ばかりになってしまいます。今は記事がどれだけ読まれたかを指標に置いていますが、例えばSNSでのシェアや記事へのコメントも検討が一歩前にすすんだアクションの1つだと考えると定性的な評価軸も必要だなと思っています。

そのために、例えばソーシャル分析ツールを導入するとか、記事へのコメントのモニタリングも細やかに行うとか……色々やりたいことがありすぎるのが課題ですね。

アミケン

良い記事も作りたいし、モニタリングもしたいし……っていうジレンマ的な?

佐々木

そうですね。他にもUI・UX改善もしたいですし。限られた時間の中で優先順位をつけて取り組むことが本当に難しいですね。ちゃんと課題を提出できてないので、3カ月に1回くらいになっているのですが、文章教室に通って、自ら執筆して誰かからフィードバックをもらうっていう取り組みをしています。自分で文章を書くことで、ライターさんの凄さを実感しますね。時間のやりくりは大変ですけど、色んな業務をやってみるのは学びになります。

おすすめ書籍&セミナー

アミケン

課題解決やスキルアップに役立った書籍やセミナーがあれば教えてもらえますか?

石井

いくつかありますが、オウンドメディア観点だと『エピック・コンテンツマーケティング』ですね。 「コンテンツマーケティングとは?」という時によく引用される本です。「有益な情報とは」「デリバリーの重要性」など学びになりましたし、コカ・コーラ社やレッドブル社など事例紹介も多く、自社の場合に当てはめて考えるのに役立ちました。

ストーリーとしての競争戦略』という本からは「クリティカルコア = 持続的な競争優位の源泉」の概念を学びました。オウンドメディアって、たくさん乱立している中で均一化、均質化も進んでいると思うので、自分たちならではのユニークネスを言語化して共有する方法、いわゆる差別化戦略のロジックが参考になりました。

あと、僕はやっぱりHRや就職・転職に関わる人間ですから『ほぼ日の就職論「はたらきたい。」』は好きですし、ためになりますね。マネジメント観点だと『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』の中に出てくる「指示を出すには"What"と"How"だけでなく"Way"を示せ」っていう話も好きです。

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佐々木

イイ話ダナー(笑)
私は石井さんとはアミケン編集塾でお会いしましたけど、編集に関する本は調べましたか?

石井

編集に関する本は、特に探してないですね。編集プロセスを知ることは、若いメンバーにアドバイスするために必要だとは思っていたので、本を読むよりはワークも交えながら学びたいなと思って、セミナー系を探しました。編集はいろいろな流派や型があるように思えたので、まずは一つの型としてグループメンバーに装着したいと思っていたところに、アミケンさんの編集塾の存在を知ったので、ちょうど良かったです。

アミケン

佐々木さんが参考にした本はなんですか?

佐々木

色々ありますが、直近ですごく勉強になったのは『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2017』です。 KPI設定の方法とか、仮説の立て方とか、数字からそれを立証する方法や対策の立て方などが一通り体系的に学べました。オウンドメディアに限らず、WEBに関わっている人なら、ある程度知っていることが多いので、とっつきやすかったですよ。

石井

さすがモニタリング担当。資格も取ったんですね。僕も読もうかなぁ。

佐々木

アミケンさんの前回のインタビューで紹介されていた本もいくつか読みました。あと編集者としてはストック系の知識に加えて、フロー系のトピックも知っておきたいので『編集会議』は毎回購読しています。ライターのギャランティ相場とか、オウンドメディア担当者のお悩みアンケートとか参考になりますね。

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アミケン

最近でた『オウンドメディアのつくりかた』は読みました? 元Engadget日本版の編集長の鷹木さんが書いた本なんですけど、社内説得、チーム作り、数字で表せるもの/表せないもの、振り返り手法など、一通りオウンドメディアにまつわるノウハウがまとまっていました。

佐々木

欲しいなとは思いつつ、まだ見てなかったです。読んでみますね!

なんだかんだで「編集スキルの基礎」がとても大事!

アミケン

お二人は、「第2期アミケン編集塾」に参加していただきましたが、その後の業務で活かせていることはありますか?

石井

僕が受講した後わりとすぐに、社内研修として「アミケン編集塾 for コンマケG」の開催を特別にお願いして、メンバー8名に受講させました。「スケジュール管理」や、ライターさんとのコンセンサスを得るための「構成案作り」について、部署内での共通認識が進みました。例えば、今まではスケジュールの組み方もメンバーごとにバラバラで、遅滞が発生してもどこの何が問題なのか把握しづらかったのですが、調整できるところ/できないところが明確になったので、可視化してどこを工夫すれば良いのかお互いに相談しやすくなりましたね。

06_アミケン編集塾_コンマケG.jpgリクルートキャリア社のコンテンツマーケティング部で開催した「アミケン編集塾」修了時

佐々木

良いなぁ。羨ましい!
石井さん自身で、記事編集をすることはないのですか?

石井

「企画立案」とかはたまにやってますね。 そのうち取材して、写真も撮って、ライティングもしたいなと思っています。

アミケン

佐々木さんの方はいかがですか?

佐々木

アミケン編集塾に参加した意図としては、改めて体系的に編集ノウハウを学びたいということだったのですけど、やはり基本ってすごく大事だなぁ……と実感しました。編集者歴がそれなりに長くなってくると、ついついテクニックに走りたくなるんですけど、取材依頼にしても、ライターさんへの執筆依頼にしても、おさえるべきポイントは普遍的なんだなって思いました。

例えばライターから、期待していたのと違った原稿があがってきた時に、この企画は誰に、何を伝えたくて、どういう読後感を、どんな態度変容を狙うのかっていうことを、編集者自身がしっかり伝えられていれば、期待通りの原稿をいただけるよなって改めて思い直しました。

アミケン

ライターとのコンセンサスをとっておいた方が、結局「楽」ってことですよね。粗い仕事をすると、それが自分に返ってくるという……

佐々木

そうなんですよ。基本をしっかりやっていれば、ちゃんとしたものがあがってくるな、と改めて認識することができましたし、参加者同士によるワークも実践的なので、先ほどの石井さんの話にもあったように「How」を知るだけじゃなく「Way」を学べる良い機会になったと思います。

アミケン

お二人とも、お仕事に活かしてくれていて嬉しいです。本日はありがとうございました。

(お知らせ)

▽アミケン編集塾について
https://gxllc.tumblr.com/post/149680561667/アミケン編集塾について

[ 取材・文:アミケン 撮影:壽かおり 協力:DIAGONAL RUN TOKYO ]

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